輪番停電の夜

我が家の最寄り駅の駅舎から外に出ると、そこはいつもの真夜中より暗い街だった。輪番停電の割り当て日だったのは知っていたけど、実施されるのかは確認していなかったので少し驚く。
駅前のバス乗り場は、駅から漏れる明かりでまだ明るいのだが、警察官--あるいは乗客誘導のバス会社社員か--の持っている懐中電灯の光で、逆に暗さが強調されてるように感じる。
住宅地の中へ続く細い路地へ入っていく。真っ暗闇に飲み込まれるんじゃないかという不安感と期待。
街灯も自動販売機の明かりもない街は、思いのほか明るかった。辺りは昔の映画の夜--昼間の風景にフィルタをかけて暗くしている--のように見える。まったくの暗闇ではないにしても、もう少し暗いものだと思っていたので軽く失望する。この光はどこから来るのだろうと空を見上げると、雲や濁った大気が停電していない街の明かりで鈍く光っている。あの光がさらに反射した光で、こんなにはっきり見えるものなのだろうか?
どこからともなく甘い匂い。「焼〜き芋」。視線を落とすと焼き芋屋が、暗い街を白熱電球でこうこうと照らしている。明るい。わきを通り過ぎると、この場所での集客に見切りをつけたのか移動を始める。私を追い抜きさらに狭い路地へ入っていく。路地の中へ遠ざかっていく焼き芋屋は、暗闇の中にぽっかり浮いているように見える。絵本の1ページかアニメの1シーンか、どこかで見たような、絵に描いたような幻想的な光景。
少し広い通りに出て、コンビニの前を通りかかると「通常通り営業してまーす」真っ暗な中、懐中電灯を持って呼び込みをしている。自家発電のコストを上乗せしても儲かるんかね。がんばれよー、と心でエールを送りつつ家路を急いだ。